第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
翌日。
武田さんは、歩いてやってきた。
デニムに、白いポロシャツ。
シンプルだけど、よく似合ってる。
きっとこんな感じなんだろうな、と
予想していたから、私もあんまり
女性らしくなりすぎないように、
薄いデニム生地のワンピースにしておいた。
…さりげなく、ペア。うふふ。
郊外の大型ショッピングセンターに向けて
車は出発する。
『ゆうべは休めましたか?』
『…なかなか眠れませんでした。』
『あ、もしかして、風邪?』
『いいえ。今日のことが楽しみで。』
…家の掃除をしたことまでは、内緒。
それはそれは、と、
武田さんは嬉しそうに笑いながら、言う。
『ドラッガーが、』
『ドラッガー?"もしドラ"の?経営学の?』
『そう、あのドラッガーが、
"寝床につく時に、翌朝起きることを
楽しみにしている人間は幸福である"
って言ってたな、って思い出しました。』
ドラッガーに親近感を持ったのは初めて。
…だって私、確かに夕べから、幸せだもん。
『…ドラッガーって、もっと、
難しいことばっかり言うイメージでした。』
『僕もそう思ってたから、
この言葉はかえって印象深いんです。』
『あんな頭のよさそうな人も、
そんなこと思うんですね。なんか、身近。』
『僕は布団にはいるとスグ寝ちゃう派なんで…
翌日の事、考える余裕、ないですけどね。』
アハハ、と笑う武田さんと、
寝顔を想像してニヤける私。
…恋の病、相当、重症の自覚、あり…
普段着を何着か買い、
お昼もショッピングセンターで。
その後、本屋に立ち寄り、
カフェで休憩して…
『欲しかったものはだいたい揃いました。
ありがとうございます。』
…このまま、帰る、のかな?
『夕食は、どうしましょうか?』
勇気を出して、誘ってみる。
『…あの、もしよければ、
うちで何か、いかがですか?』
『…お邪魔しても?』
『…狭いし、散らかってますけど…
ほら、たくさん歩いたから、
夕食は家でゆっくりどうかな、と、思って…』
『じゃあ、ホットプレートがあれば
お好み焼き、いかがですか?
一緒に作ったら楽しそうだ!』
…この人は、とても誘い上手だと思う。
いつも、こちらの気持ちをうまく掬って
yes、と言いやすいように提案してくれる。
だから、今日も迷わず、答える。
『それがいいですね!』