第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
…人生初の相合い傘は
あっという間に、ゴールに到着。
『濡れませんでしたか?』
アパートの前で
傘の滴を丁寧に払い、
たたんでくれた武田さん。
『はい、』
…ふと見ると、
武田さんの左半身はびしょ濡れだった。
私を傘にスッポリ入れてくれたから?!
『すみません、こんなに濡れて…
よかったら、あの…部屋にどうぞ!
タオルもシャワーも使って…』
…下心なんか、本当に、ない。
ただ、この優しさにお礼をしたいだけ。
『いえ、このまま帰ります。』
『…じゃ、代行、呼びます。』
『それより、お願いが。』
『何ですか?何でも言って下さい!』
『車、明日まで
ここに置かせて貰えませんか?
それと、この傘、借してください。』
『いいですけど…歩いて帰るんですか?』
『ここから10分くらいなので。』
『…近所?』
『えぇ。だって、
そんなに遠くのコインランドリーには
行かないですよ(笑)』
…それは、そうだ。
『ところで早瀬さん、明日はお休みですか?』
『はい。』
『もしよければ、明日、
僕の買い物につきあってもらえたら
嬉しいんですけど。』
『買い物?』
『はい。僕、ジャージなら
たくさん持ってるんですけど
普段着はほとんど持ってなくて。
そういう服、よくわからないから
選ぶの、手伝ってもらえませんか?』
…デートのお誘い、だよね?
『楽しそう!』
『よかった。それでは…
明日の10時に、ここ集合しましょうか。』
『はい!』
『では、また明日。…風邪を引かないように
早くお風呂に入って休んで下さいね。』
…先生みたい。あ、先生か。(笑)
『お気を付けて。』
『お休みなさい。』
…傘をさして遠ざかる後ろ姿が
見えなくなるまで見送った。
その間に、三回、振り返ってくれた。
約束をして会うのは、初めて。
それだけで、
明日が来るのが待ち遠しい。
私、何を着よう?
彼は何を着てくる?
どこで買い物しよう?
彼はどんな服が似合う?
お昼は何を食べに行こう?
夜までいっしょにいられる?
…うちに誘うかも…掃除しとこ!
初めてのデートを思い出す。
中3の頃だった。
あの時と同じ気持ち。
たぶん今、私の頬は
少し、ピンク色だろう。
こんな時間に掃除なんて…
あぁ、楽しくて仕方ない。
恋は、全てを、変える。