第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
…焼き鳥の匂いをプンプンさせながら
お店を出ると、
外はまた、雨が降りだしていた。
『傘、もう1本
持ってくればよかったですね…』
『そうですか?
僕は1本でよかったと思ってますけど。』
ニッコリ笑った武田さんは、
ザンッ
…と私の傘を開くと、
『どうぞ。』
と、その傘の下に私を招き入れてくれた。
『相合い傘、なんて、もう死語ですかね?』
『私、生まれて初めてかも。』
『実は僕も。昔から憧れてたんです、
こうやって彼女と歩くの。』
…今、彼女、って言った、よね?
私のこと、だよね?!
さらに
『濡れますよ、ほら、もっとこっち。』と、
グッと肩を抱き寄せてくれる。
…気が遠くなりそうな幸せ。
どんな高級レストランに誘われた時より
どんな高級車で送ってもらった時より
自分が大事にされている、と思える。
気持ちは、お金では、はかれない。
そんな当たり前のこと、どうして
今まで、気づけなかったんだろ。
…今までの恋愛は、
"ゲーム"だったのかもしれない。
どれだけのアイテムを持った人を探し、
どんなアイテムをゲットできるか。
どんな技を使って相手を撃ち落とし、
どんなステージに行けるか。
それが、今までの私の恋愛だった。
もう、相手から奪うことに興味はない。
私が差し出せるものは何か。
そればかり考えてる。
『雨が降っててよかったと思うの、
久しぶりだなぁ。』
独り言のような武田さんの声が
私の少し左上から聴こえてきた。
その声がとても穏やかで、
心に染みる。
胸がいっぱいで
返事は、出来なかった。
ただ、頷いた。
傘を打つ雨音が
この恋の始まりを祝福する
拍手に聴こえた…のが
私の心の
跳ねる想いを
表してる。きっと。