第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
次に会えたのは、
一週間ちょっとたった土曜日だった。
会えなかった間、
考えれば考えるほど
武田さんが私のことをどう思っているのか
気になって気になって…
しかも、私の一人妄想の中では、
既に身体の関係になっている。
ますます、勝手に恥ずかしい…
『…今日は少し、元気がないですね?』
『いや、そんなことないです…』
『雨も続いてるし…お疲れかな。
今日は早く帰られたほうがよさそうだ。』
そ、そんなこと、ない~っ!
会いたくて、会いたすぎて、
頭の中でいろいろ考えてたから
こうなってるんです!!
…と、言えない。
私、今まで何のために本を読んできた?
こんな時に使える言葉があるはずなのに。
読書好きの肉食女子が、
聞いて笑える、この有り様。
…ホント、情けない自分…
結局、うまく話せなかった私を
"疲れてる"と思ったらしい武田さんは
コインランドリーから直接、
うちに送ってくれた。
車で、5分。
なにも話さなくても、
カーステレオから聞こえてくるラジオだけで
不自然でなく過ぎていく程度の時間。
季節に合わせたリクエストソングなのか、
あじさいを歌った、
個性的な声の女性の歌が聞こえてきた。
窓の外の通りすぎる景色のあちこちに
色を失いはじめたあじさいが見える。
…あぁ、今年の梅雨も終わるな…
そう思った時、ふと大事なことに気付く。
梅雨が過ぎたら、
武田さん、
コインランドリー、
…来なくなる?
…そんなの、イヤだ。
このまま、梅雨の終わりと同時に、
なにもなかったように終わる、なんて。
このままじゃ、
枯れたあじさいみたいに
悲しみでカサカサになってしまう。
私、まだ、色づける。
私、まだ、咲いてない。
私、まだ、枯れたくない。
車が、
ハザードランプを点滅させて
私のアパートの前に、停まる。
『着きましたよ…大丈夫ですか?』
黙っていた私を、
よほど体調が悪いと思ったのだろう。
武田さんは、心配そうに顔を覗きこんだ。