第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
帰り道は、
レインブーツを履き忘れたかと思うほど
足取りが軽かった。
あじさいの花が、
暗闇に浮かぶ宝石のように輝いて見える。
あれほど梅雨が好きだったはずなのに、
次、彼に、会うときは、
星空ならいいのに、と思う自分がいる。
全く好みでなかった人が、
友達、という気持ちを飛び越えて
急に気になり始める。
…一瞬で、全てが変わるこの感覚。
26にもなると、
それをなんと呼ぶか、知っている。
間違いない。
これは、恋、だ。
さっきまで、あれほど
前の彼を引きずっていたのに。
もし今バッタリ会っても
『私、屁理屈ばっかりでごめんね〜!
新しい彼女と、どうぞお幸せに🎵』
と、笑って言えそうだ。
…一方で、
あんな草食系に見える彼とでも、
恋愛に発展出来るのか?という疑問も湧く。
"お友だち"なんて中途半端な間柄で
満足していられるほど
私、満腹じゃないからね?!…
そうやって、帰る道の間じゅう、
ずっと、彼のコトを考えてた。
彼…彼?!
そして、気付く。
…名前、聞いてない。
『あなた』『僕』『私』で
成り立っていた会話。
番号もアドレスも交換していない。
次に会う日も、決めてない。
昭和の物語じゃあるまいし…
でも、不思議と不安じゃない。
事実は、小説より奇なり。
本が好きな私たちらしくて、
それはそれで、いい。