第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
『本来のあなたではないようですから。』
…私の何を知ってるというのだろう。
自分の存在意義を確認するためだけに
あなたを誘惑しようとしている
サイテイの私の、何を。
好みじゃない男にペースを乱されて、
イライラする。
『本来の私、って?』
噛みつくような勢いで問う。
…別に、この人に好かれなくて構わない。
そう思うと
愛されるための気遣いなんか一切しない
自分の本性が剥き出しになる。
反抗期の高校生、みたいな。
『ねぇ、本来の私の、何をご存じなんですか?』
知っているなら、教えてほしい。
…私は、どうして愛されなかった?
『そうですね、僕が思うに、』
無造作に置かれた、
さっき私が読んで泣いた本。
その本をチラリと見て、彼は言った。
『この本を読んで泣く人は、
男性を振り回して楽しむ人じゃないですね。』
作家としてだけでなく、
脚本やエッセイでも有名な女性作家が
些細な日常の中の男と女の本性を書いた短編集。
『僕はこの中の"花の名前"という話が
好き、というより忘れられないんです。
奥さんと、夫の浮気相手のやりとりが、
男の僕には理解できない女性らしさで…
読んだとき、思いましたよ。
自分が愛する人には、絶対、こんな思いを
させないようにしなくちゃ、って。』
愕然とする。
まさに私は、
その話を読みながら、泣いていたのだ。
別れた彼と私は結婚はしていなかったけど、
奥さんの立場が私。
そして、浮気相手は、私より若い女。
『読書が趣味って、ステキだ。』
出会ったとき、そう言ってくれた彼だったのに、
浮気相手は、本なんか教科書以外
読んだこともなさそうな女だった。
私のところに直談判しにきた女は言った。
『彼、言ってましたよ~。
本ばっかり読んでる女は~、
屁理屈ばっかりでつまんない、って。
私みたいなちょっとおバカちゃんが
かわいくてちょうどいい、って~。』
…これで別れたら、負け。
そう思ったけど。
これ以上続けることは出来なかった。
浮気くらいは目をつぶろうと思っても、
ダメだった。
だから、
せめてもの気持ちで、
私から別れを切り出した。
自分で終わらせて、
自分で傷ついてる。
…わかってる。
私も彼の本当の姿ではなく
見た目や財力が好きだった。
だから、悪いのは彼だけではない。
お互い様なのだ。