第17章 ジューンブライド ~クリスタルウェディング~
…いつものコインランドリーに
今日は先客がいた。
男。
私の好きな椅子に座って、本を読んでいる。
ジャージに、メガネ。
パッと見、冴えない…
でも、絶対に悪い人じゃない、という感じ。
"不器用だけど誠実"を
絵にかいたような人だな…
チラ見でそこまで感じたのは、
私の周囲にはいないタイプの人、
だからだろうか。
しょうがないから、
いつもとは違う椅子に座って、
私も読書を始めた。
低い、機械音。
ムッとした蒸し暑さと、
それを打ち消そうとするような
エアコンの冷たい風。
…そして、時々聞こえる、
二人分のページをめくる音。
…落ち着かない。
いや、落ち着いてる、のかな?
誰かと一緒に
こんな空間を共有したことがないから、
慣れない、けど、居心地は悪くない。
そう思ったとき、
私の乾燥機が止まった。
カタン、と立ち上がった私のたてた音で
その人も、ビックリしたように
本から目を離す。
その人の乾燥機は、
既に止まっていたようだ。
…よほど本に夢中になっていたんだろう。
ほぼ同時に、それぞれの洗濯物を
取り出し始めたのだけど。
気になる。
この人、絶対に、
コインランドリー初心者だ。
乾いた洗濯物をあんなにギューギューに
かごに押し込めちゃったら…
見ていられなくて、
つい、声をかけてしまった。