第16章 指輪
テーブルの上に、
食べかけの晩飯。
10分前の平和な風景は
今は、もう、ない。
テレビから聞こえる芸人の笑い声が
腹立たしいほどバカバカしく聞こえる…
バカは、俺か…
甘えてた。
同棲に緊張感がなくなって、気が緩んでた。
他人と暮らすマナーを見過ごした。
全面的に、俺が、悪い。
でももう、謝ろうにも、謝る相手がいない。
残った晩飯を口に運ぶけど、味がしない。
食い終わった茶碗…自分で洗わなきゃな。
アキ姉が残していった分、どうしよう。
明日の朝飯、どうしよう。
…そんなことより、アキ姉だ。
どうしよう。
追いかける?
…玄関の前まで出てみたけど、もう、姿はない。
駅まで歩いてみたけど、見当たらない。
…荷物、抱えていったくらいだ。
しばらく、帰らないつもりだろうか。
携帯、鳴らしてみる。
『おかけになった電話番号は、
電波の届かないところにあるか、
電源が入っていないため、かかりません。』
電源、切られてる…マジ怒りだ…
とりあえず、帰る。
一人になった。
小さな離れの静けさが、痛い。
こうなってみて、気付く。
俺、アキ姉のこと、知らないことだらけだ。
どこを探していいか、皆目、見当がつかねぇぞ…
あぁ、くそっ!
自分の愚かさに、腹が立つっ。
アキ姉は、親じゃねー。
(親だって、もう甘えていい年じゃねーけど。)
ちゃんとお互いに自立して
支えあっていかなきゃいけない立場なのに…
その夜、何度か電話してみたけど、
返ってくるのは
さっきと同じ、無機質なメッセージだった。
…アキ姉、どこにいる?
すぐに迎えに行くから、謝らせてくれよ…