第16章 指輪
帰り道。
込み合う電車を降りると、風が気持ちいい。
すっかりシャッターがおりた商店街を抜け、
蛙の声が響く田舎道を歩く。
これまで、何万回も歩いてきた、
家に向かう道。
『あれ?電気…』
『玄関だけ、つけてきた。
真っ暗な中に帰るの、寂しいじゃん。』
あぁ、そうか。
俺が帰るときは、
いつも先にアキ姉が帰ってるから、
俺は、
真っ暗な家に帰ることがなかったのか。
いつも『おかえり』の声が待っていたのは
当たり前じゃない。
アキ姉が、そこにいてくれたから。
帰ろう。
今日は、二人で一緒に。
少しずつ、歩幅が広くなり、
そして小走りになる。
『繋心、待って。』
浴衣で走りにくそうなアキ姉の手を引く。
『どうしたの?おしっこしたい?』
『バカ!ガキじゃねぇ!!』
小さな灯りがともる玄関に飛び込むと、
下駄を脱ぐのももどかしく、
そのまま、抱き締めてキスをした。
『…ん…く、苦しいよ…』
走ったばかりで息が上がっているアキ姉が
体を離した。
『どうした?若者カップル見て、
妄想膨らんじゃった?』
『…ここも、膨らんだ…』
アキ姉の手を俺の股間に導く。
浴衣の間から忍び込み、
下着越しに俺の男根に触れる手。
『…カチカチだよ?…』
『ここで、抱かせろ。』
『ここで?せめて、あがろうよ。』
『イヤだ…アキ姉、』
『なぁに?』
『自分のこと、傷物って言うな。
使えない体なんて、言うな。
傷も何もかも、アキ姉の体の一部だろ。
アキ姉の体の一部ってことは、
俺のもんだ、ってことだから。
悪く言うのは、俺が許さねぇ。
全部、俺の大事な体だ…』
俺の、だから。
今すぐ、欲しい。