第16章 指輪
『コラコラ、顔が、物欲しげだよ、繋心!』
アキ姉が、笑いながら
うちわで俺をあおいでくれる。
『見んのは、カップルじゃなくて、花火!
いらない妄想、しな~い!』
…アキ姉も、いつもよりお喋りだ。
家にいるときだって二人で過ごしてるのに、
こういう所に来ると、
いつもと違う話がしたくなるのは
ナゼだろう。
『な、俺とつきあって、後悔してねーか?』
『え?唐突だね、なんで?』
『いきなり夫婦みたいな毎日でさ、
あんまり、つきあってるっていうような
ドキドキするようなこと、ねーだろ?』
『…今、ドキドキしてるよ。
だって、今日の繋心、かっこいいもん。』
…紺色の男物の浴衣。
アキ姉が、今日のためにウニクロで買ってきた。
アキ姉も、浴衣。
アキ姉のかーちゃんのお下がりらしい。
白地に紺の落ち着いたデザイン。
周囲にいる若い女の子達の
華やかな柄と比べてずっと大人っぽくて、
…色っぽい。
思う。
俺は、もう、大人の女がいい。
若さや華やかさは、見てる分にはいいけど、
自分がつきあうとなったら、
刺激より、安心が欲しい。
周りのカップルの存在のせいなのか、
いつもと違う解放感のせいなのか、
それとも浴衣のせいなのか、
それはわからないけど、
するりと、
いつもは言えない言葉が出てきた。
『いつも世話してもらうばっかりで、わりぃな。』
『何?これ、花火見ながら懺悔する会?』
…相変わらずの調子で答えてくるのは、
照れ隠しだろうか。
それとも、初めての二人デートで
テンションが上がってるから?
『ちげーよ、バカ。
真面目に話してんだから、真面目に聞け。』