第16章 指輪
翌日、朝起きると、
もうアキ姉は仕事に行った後だった。
冷蔵庫を開けると、
ゆうべ、俺が食べなかった晩飯。
ラップがかかって並んでる。
豚カツに、
ササミとキュウリの梅肉和え、
ナスとオクラのおひたし、
そして、枝豆。
どれも、ビールによくあうメニュー。
…見て、ハッと思う。
昨日、俺、
『なんで自分の時間を使うのに
連絡なんかしなきゃいけねーんだ?』
と思ったけど、
仕事から帰って、俺の晩酌のアテに
急いでこの料理を作ってくれた
アキ姉の時間を
俺は断りもなしにムダにしたんだよな…
猛烈に、反省する。
一緒に暮らすって、
見えないところでお互いの時間や労力を
共有しあうってことか。
今んとこ、どう考えても
アキ姉の方が、俺のために
いろんなことをしてくれてる。
"つきあおう"って言ったのは俺だし
"俺がいるから大丈夫"とまで
(セックス前の勢いとはいえ)
口走っておきながら、
俺、自分のことばっか、考えてねーか?
好きな時に好きなことをしていたくて
今まで、この生活を選んできたけど、
『誰かのために生きていく』ことを、
『誰かと一緒に生きていく』ことを、
初めて、考える。
…そんな急激に"覚悟"は出来ねぇけど。
もしそうするとしたら、
やっぱり、その『誰か』はアキ姉なのか?
…でも、ま、まだアキ姉も
結婚したいわけじゃねぇみたいだから。
急いで考えなくても、いいか。
付き合い始めたばっかりだしな。
…冷えた豚カツを食いながら、そう思った。
その道のりは、
なかなかデコボコしていて
曲がりくねっていて、
初めて通る道のりだ、ということを
まだまだ俺は、
この後、知らされるわけだ、