第16章 指輪
もぞもぞと手を探していたら、
アキ姉が、背中を向けたまま言った。
『ねぇ、』
『ん?』
『なんで怒ってる?って聞いて。』
『…なんで、怒ってる?』
『あのね、3つ、ある。』
3つ?
2つは心当たりあるけど…
『電話、しなかったことだろ?
それと、また、出ていったこと。
…あと1つ、なんだ?』
『あと1つはね、
"嶋田君達に帰れって言われたから帰って来た"
…って言ったこと。』
は?そこ?そこも?!
『言われなかったら、帰らなかったんでしょ?』
『…だって、飲んでたからさ。』
『でも、帰ってきてくれたんだね。』
『当たり前だろ。他に帰るとこ、ねーもん。』
『…よかった。』
…なんだかわかんねぇけど、
もう、怒ってないみたいだ。
『ね、今、女ってめんどくせぇ、とか思った?』
『思ってねぇよ。』
…今は。さっきは、思ったけど(笑)
『面倒くさいんだよ、女は。
だから、諦めないでね、いろいろ。』
…いろいろ、ですか。
これからいろいろある、ってことですかぃ?
『あのさ、嶋田達が、』
『また嶋田君?仲、良すぎ!』
『まぁ、聞けよ。
嶋田達がさ、ゴメン、って謝ったら
後ろから抱き締めろ、って
言ってたんだけど、どう思う?』
アキ姉が、笑いだす。
『いいね、それ!なんか新鮮!やって、やって!』
『…アキ姉、ゴメンな。』
布団に寝たまま、後ろから抱き締める。
そのまま胸をまさぐろう…と企んだのが
バレたかのように、
アキ姉がくるっとこっちに
寝返りを打った。
そのまま、キスをしてくる。
唇にも、頬にも、首筋にも。
チュ、チュ、と、小さなキス。
…くすぐったくて、甘くて。
めんどくせぇ、とかって思って、ごめんな。
お隣さんも、もともとは、他人。
言わなきゃわかんねーことも
たくさんあるはず。
ぶつかり合っても壊れないような
頑丈な二人に、
俺達、なれるだろうか?
意識は、そこで、途切れた。
『おやすみ、繋心。』
アキ姉が、
優しい声でそう言ってくれたことも
すっかり機嫌がなおっていたことも
全く気付かないスピードで、
俺は、眠りに落ちていった…