第16章 指輪
再び"おすわり"の暖簾をくぐったら、
まだ飲んでいた嶋田と滝ノ上は
明らかに『(>_<)』という顔をした。
『バカか、お前は。』
『でも何時まででもどうぞとかって言われたら、
なんとなく腹立つだろ!』
『だから、そこは"ゴメン"って言いながら
後ろからギュッ、だろ?!』
…後ろから、ギュッ?
『俺達みたいに
結婚して何年もたつともう通用しねーけどさ、
最初のうちはそれで何とかなることもあるから。』
『そうそう、ホントは構ってほしいんだって。
そのまま出てくるとか、お前、最悪の戦法!』
…バレーの戦いかたならわかるけど、
同棲のセオリーなんて、知るか!
『こりゃ、下手すりゃ明日まで引きずるヤツだ。』
『ま、誰でも一度は経験することか。』
『アキさんの懐の広さを信じるのみ。』
…なんだか、嶋田や滝ノ上が急に
ベテランに見えてきた。
それから一時間くらい飲んで、
改めて、家に帰る。
『…ゴメン、で、後ろから、ギュッ…
ゴメン、で、ギュッ…』
酔った頭で、何度も繰り返しながら。
『ただいま…』
返事の声は、ない。
玄関以外は電気も消えていて…
『アキ姉?』
寝たのか?
そっとふすまを開けると、
もうアキ姉は、布団にいた。
『おーい、もう寝た?』
『…グッスリ、寝てます。』
…返事してるじゃん。
『…ゴメン。』
…寝てて、後ろからギュッ、が、
出来ない場合はどうしたらいいか、
アイツラに聞いてこなかった…
『今度から、ちゃんと電話する。』
『いつ帰るかわかんない人を待つのって、
しんどいんだから。』
『おぅ。』
『お風呂、入ってから寝てよね。』
『へぃ…』
とりあえず、嶋田たちの言う通りに、
全面降伏だ。
…シャワーを浴びてアキ姉の部屋へ。
並んだ布団の間に、微妙な距離がある。
これ、心の距離?
めんどくせぇ、とつぶやきかけて
ダメだダメだと思い返す。
滝ノ上が言ってた。
『完全に離れたら、取り返しつかねーぞ。
グズグズ言ってくれてるうちは、
まだ大丈夫だから、こっちから折れろ!』
布団をくっつけて潜り込み、
"ギュッ"が出来なかった分、手を探る。
…俺に背中を向けて寝てるのも、
拗ねてる、っていう意思表示?
なんだか可愛く思えてくる…