第16章 指輪
今すぐ、ここで、と思ったけど、
最初は丁寧に愛したいと思ったから
アキ姉がいつも寝ている和室に
手を引いて連れていく。
張りつめた空気をゆるめるように、
アキ姉が言った。
『…勝負下着、つけようか?
繋心、黒、好きなんでしょ?』
『バーカ。もう勝負はついてるよ。
俺の負け。昔っから何やっても、
アキ姉には勝てねぇんだ。それに…』
耳元で囁く。
『すぐ脱がすから。下着は、いらねぇ。』
シャツをめくりあげるのも、もどかしい。
まずはアキ姉を脱がして、
そして、俺も、全裸になった。
『繋心、キレイな体…』
アキ姉が、俺の胸から腹筋にかけて、
指でゆっくり撫で下ろす。
…誰と比べてんだよ…とは、言わない。
10年一緒にいた旦那の方が、
アキ姉の体は、よく知ってるだろ。
これから時間をかけて、少しずつ、
アキ姉の中の男の記憶を、
俺のものに塗り替えていくから。
アキ姉の手が、俺の頭に伸びた。
『繋心、これ、はずしていい?』
俺の金髪を押さえているヘアバンド。
『これ、繋心の"気合い"でしょ?
私も全部、繋心に委ねるから、
繋心も、頑張らないで、私に甘えて。』
…俺が頷くと、アキ姉の手が、
ヘアバンドをはずす。
パサ…髪の毛がおりてくる。
誰にも見せなかった、素の自分。
『頑張らなくていいよ』って言われると
心がイッキにほどけていく。
誰と戦ってた、というわけじゃない。
ただ、自分に負けないように、
という気合いが、俺の金髪だ。
社会人としては、普通じゃねぇ。
だから、サラリーマンを選ばず、
自分の好きな生き方を選んだ、という
自分に対するプライド。
…つまんねープライドかもしんねーけど、
簡単に今の生き方を捨てるつもりはねぇ、
という俺自身の意思表示だ。
『こっちの方が、優しい顔に見えるね。』
俺を見上げながら、
アキ姉が俺の髪をゆっくりと撫でる。
『優しくなんかしねーぞ。言っただろ、
俺、抱くときは激しいから、って。』
照れ隠しなのは、バレバレだ。
俺の首筋にまわった手に力が入り、
アキ姉の体に引き寄せられて
重なる体から、夜が始まる。