第16章 指輪
『シャワー浴びて、
汗流して、酔いも覚ましておいで、ね。』
…だよな、ちょっと、頭、冷やしてこよう…
風呂から上がると、アキ姉が台所で
冷たい麦茶を準備してくれていた。
『さっぱりした?』
『おぅ…さっきは、ごめん…』
『なんのこと?』
『急に抱き締めたりして…』
『あぁ、いいよ。』
『びっくりしたろ?』
『…嬉しかった。
もう、誰にも必要とされてないかな、
って思ってたから。』
『…なんでそんなこと?』
『子供も産めなかったし…
離婚したし…
もう40過ぎたし…
手に職があるわけでもないし…
親不孝な娘だし…。
どこにも居場所、ないもんね。』
一言、聞くごとに、
俺の胸まで疼く。
ズキン、ズキン
ギリ、ギリ、ギリ…
アキ姉の心の痛みが、
俺の心も痛ませる。
ダメだ。
ごめん。
止めらんねぇ。
…今、謝ったばっかりだけど…
今度はハッキリ俺の意思で、
思いきり、抱き締めた。
『そんなこと、言うな。』
『そうだね、言ってもしょうがないね。』
『違う!しょうがないからじゃなくて、
俺には、アキ姉が必要だから。
今、俺、世界で1つだけ欲しいのは、アキ姉だ。
ほかには、なーんも、いらねぇ。』
『…欲しいのは…心?体?』
『…どっちも。全部。』
西谷の言葉を思い出す。
"俺、コイツのこと好きだって、
素直に認めるだけでいいんっすよ"
『アキ姉…好きだ。
隣のねーちゃん、じゃなくて、女として、好きだ。』
抱き締めていた腕をゆるめ、
顔を見つめる。
『繋心、』
熱を帯びた瞳が、
訴えるように俺を見つめ返す。
『抱いて…くれる?
子供つくるためじゃなくて、
女として、抱いてほしい…』
返事の代わりに、唇を重ねた。
最初から、激しいキスを。
アキ姉の心ん中にある
傷や痛みや悲しみや寂しさを
全部、俺が吸い上げるように。
求めていいなら、
どこまでも、求める。
俺、アキ姉にあげられるもの、
なんも持ってねぇけど、
女としての喜びなら…
朝までずっと、抱きしめるから。
俺にとってアキ姉は、
"子供を産む人"じゃなくて、
"俺が愛する人"。
俺の、大事な、人。