第16章 指輪
『なあ、どーやって誘ったらいい?』
二人が、顔を見合わせて爆笑する。
『…な、なんだよ?!』
『お前、高校生の初恋みてーなこと、
言ってんなぁ!』
『この歳でそんな気持ちになれるって、
ある意味、羨ましいわ!』
『…二人して、バカにしてんのか?』
『バカになんかしてねー、してねーけどさ、
ごめん、笑いが止まんね~わ…』
『烏養、お前、すっげー、大事なんだな、
アキさんのこと。』
あ。
心の中に、
すごいスパイクが撃ち込まれたような
衝撃を感じた。
それだ。
"すっげー、大事。"
なんで、こんな簡単な言葉が
思い浮かばなかったんだろう。
俺は、アキ姉が、すっげー、大事だ。
離婚のこと、不妊のこと、仕事も何もかも
捨ててきたアキ姉を、
これ以上、傷つけたくなかった。
気取ることなく居心地よく一緒にいられる
家族みたいなアキ姉を、
手放したくなかった。
最初から、お互いの家族も、お互いの弱さも
全部わかってる相手なんて他にいない、と
知っていた。
すっげー、大事。
だから、失いたくなかった。
10代20代の頃みたいに、
"はいはい、終わった恋は忘れて、
次、いこーぜ、次!"とは
なかなか言えない年齢。
見てるだけじゃ、ダメだ。
誰かに持っていかれちまうかもしんね。
失わないためには、
自分で手に入れるしかねーんだよな。
…やっと笑いがおさまったらしい二人。
嶋田が言った。
『俺、
結婚してから気付いて後悔したんだけどさ、
結婚相手って、
人生最後の恋の相手ってことになんだよね、
普通。』
…人生最後の恋の相手。
考えたこともなかった。
すごく、重くて深い言葉だ。
そのくらいの気持ちになれる相手と
出会うから、みんな、結婚を選ぶのか…
滝ノ上も、頷いている。
『そういやそうだな。そう考えたら、
つきあってるうちに、もっとたくさん
恋人らしいこと、しとけばよかった。
結婚したら、現実の連続だからなぁ。』
『だろ?俺もそう思うんだわ。だからさ、』
さっきまで涙を流して笑ってた嶋田が、
一転、真面目な顔で言う。
『俺達の意見なんか聞いてねーで、
お前が自分で決めろよ。
トラウマになんかふりまわされんな。
人生最後の恋にふさわしいように、
お前らしく口説かなきゃ、男じゃねーぞ!』