第16章 指輪
…目が覚めると、もう
台所からカチャカチャ音がしている。
『おはよう。』
『あ、おはよ。』
…お互い、昨日のことには触れない。
テレビは、あさチャン。
食卓の上には目玉焼き。
そう、いつもの、朝。
『あ、ごめん、マヨとしょうゆ、出すわ。』
『いや、いらね。
今日は塩コショウで食ってみるから。』
『え?』
『うまいんだろ?』
『うん!…じゃあ、今日は私が
マヨしょうゆで食べてみようかな?』
不思議だ。
"いつもの朝"から
俺が勝手に
一歩近づいてみようと思っただけなのに、
向こうも一歩、俺に近づいてくる。
お互いの距離が、ちょっと縮まる。
少しだけ"いつもと違う"朝。
でも。
アキ姉が、ニヤッと笑って手をだした。
『せーの、』
『じゃんけん、』
『ポン!』
『おら見ろ~っ、勝ったぞ~っ!』
じゃんけんには俺が勝って、
めざましテレビにチャンネルを変える。
…ほんとは、あさチャンでもめざましでも
どっちだっていい。
でも、番組を決めるというより、
ジャンケンして一喜一憂する、
ってことが楽しいから、
もうしばらく、"俺は、めざまし派"
ってことにしておこう…