第16章 指輪
…不妊。
結婚して10年、いろいろ試しながら、
それでもなかなかうまくいかず、
誰もアキ姉のことを
責めるわけでないのに
だんだん、
向こうの実家に顔を出しづらくなり、
旦那にも申し訳ない気持ちばかりが募り、
気付けば年齢的なリミットも近づき、
そのうち、子供に関係ないことでも
『ごめんね』という言葉を
繰り返すようになり…
『向こうの家族もいい方達だったし
彼のことも好きだった分、
私と結婚したせいで、
彼やご両親の人生の楽しみを、
半分、潰しちゃったって思うようになった。
おかしいよね、
責められたくないはずなのに、
気を遣って下さって、
子供のこと何も言われないのも
それはそれで居心地悪く感じるって。
あの頃、あたし、
ちょっと、病んでたのかも。
自分がそれに耐えられなくなって…
別れてって、
私以外の人と人生、やり直して、って
あたしからお願いしたんだ。』
責任感があって、
いつも"ちゃんと"頑張るアキ姉らしい。
勝手に"自分が悪い"としょいこんで、
その他のことも、
何でも我慢してきたんだろう。
…そんなアキ姉を見ていたら、
きっと、旦那も苦しかったはずだ。
別れたいというなら
別れてあげた方が…と思うのも、
ある意味の優しさかもしれねー。
男の立場も、少しわかる気がする。
どのみち、
他人が立ち入れる話じゃねーな。
『立ち入ったこと聞いちまったな。ごめん。』
『ううん、いつかは繋心にも話さなきゃって
思ってたからね。むしろ、そっちから
聞いてきてくれてよかった。』
…アキ姉の離婚の原因そのものより、
俺の心に突き刺さったものがあった。
"好きだからこそ、別れた"という言葉。
『嫌いじゃないのに別れるって…
自分で言い出したことでも、傷ついただろ?』
『そうだね。
むしろ、責めてくれたらいいのに、
嫌いになれたらどんなにラクだろう、って
何度も思ったな、確かに。』
『俺も…同じ思い、したことある。』
『そうなの?』
アキ姉が打ち明けてくれたから、
俺も、自分の心の傷を話したい、と思った。