第16章 指輪
西谷の言葉を反芻しながら学校から帰ると、
ちょうど家の前で、アキ姉と一緒になった。
『繋心、ごめん、遅くなった。
今からすぐ、ご飯作るから。』
買い物袋をぶら下げたアキ姉。
新しい職場で働き始めたばかりだ。
疲れてねぇはずがないよな…
西谷の言葉が頭をよぎる。
『相手を理解したいと思う気持ち。
笑っててくれれば、それでいい。』
…そういえば、俺、
自分が快適に過ごすことばっかり考えて、
アキ姉の気持ち、考えてなかったよな。
笑顔も、同居し始めて、ほとんど見てねぇ。
『アキ姉、その食材、明日でも使えるもん?』
『え?うん、冷蔵庫、入れとけば。』
『じゃ、今日はもう、外で食わねーか?
俺が奢るから。』
『なんで?』
『アキ姉の就職祝い、まだしてなかったもんな。
仕事の話とか、聞いてみてーし。』
…少し、笑ってくれた気がする。
『シャワー、あびてからでもいい?』
『おぅ。俺も汗、流してからにしよ。
今日も"おすわり"でいいか?』
『うん、あそこが一番、落ち着くもんね。』
『んじゃ、もう、化粧もしなくていいからさ、
すっぴんジャージで行こうや。
気取る場所じゃねーだろ?』
…出来るだけ、
飾らない心で向き合いたいからさ、と
言葉にはしなかったけど。
そんな思いで誘ったのは確かだ。