第16章 指輪
…そう思っていた俺のヨミは見事にはずれ、
次の朝から、
お袋達は早速、楽しそうに
離れの掃除を始めた。
『いいわねぇ、同棲。
私達の頃は結婚前の男女が一緒に住むなんて、
歌か映画の世界だったものね。』
『ほんとほんと!
憧れたわ~、駆け落ちとか。
現実はもうほら、嫁なんて、
労働力以外の何物でもなかったからねぇ。
愛とか夢とか、語り合ってみたかったわ。』
『そうそう、
結婚する前にこんな人だってわかってたら、
結婚、考え直してたかも、アハハ。』
…親父達には到底、聞かせられないような
ぶっちゃけトークがとてつもなく弾む中、
作業も順調に進んだようで…
3日もすると、
物置状態だったアキ姉の家の離れは
立派な生活空間になり、入り口の前には
小さな花壇まで整備されていて…
『いいわぁ、愛の巣!
私が住みたい、斎藤工様と❤️』
『勝手に住め!ってか、お袋、バカか?
何が"愛の巣"だ。俺とアキ姉のどこに
愛があるんだよ。』
『一緒にいれば、
あとからついてくるわよ、そんなもの。
あんた達は小さい頃から顔見知りで、
人として間違いないってことが
わかってるだけでも安心でしょ。』
『繋ちゃん、アキは気が強いけど
繋ちゃんならわかってくれてるから安心だわ。
いろいろあって凹んでるから、優しくしてやって。
今のアキには、母の愛より異性の愛って。』
…だからぁ、
産まれてこのかた、アキ姉を
女と意識したことはほとんどないし、
ましてや"異性の愛"なんて、
俺に求められてもホントに困る。
…アキ姉が仕事から帰ったら、
直接、相談するしかねぇな。