第16章 指輪
『繋心、ちょっとヤバイってば。
あんたもこっち来て、何か言って!』
…面倒くせぇなぁ…
『なんだよ?』
障子を開けると、
両方の母ちゃん達が
かわるがわる、喋りだす。
『繋心も、もうすぐ40なのに独身だし。』
『うちのアキなんか、
もうすぐ42なのに出戻ってくるし。』
『二人とも、この年齢で
まだ親の世話になってるなんて、どうなの?』
『そうそう、こっちが世話してもらう日も
近いはずっていうのに。』
『だからさ、あんた達二人、
うち、出ていきなさいよ、って話。』
…は?母ちゃんたち、
酔っぱらってんのか?
『アキ姉、なんでこうなってる?』
『聞いた通りよ。アラフォーの大人が、
いつまでも実家に甘えるな、って
いうことみたい。』
『だからって、
急に出ていけって言われても、なぁ?』
『ちょうどいいことに、ほら、
うちのじいちゃん達が使ってた、離れ。
あそこ、今、誰も使ってないから、
あそこで、あんた達、二人暮らししなさい。
他人じゃないんだし。』
『はぁっ?!』
…隣人は、他人だろ?!
『ね、お母さん達、
こんなこと言い出したんだってば。
だから繋心からも、なんとか言ってよ!』
『…わざわざ一緒に住まなくても、
すぐ隣に住んでるじゃねーか。』
『このバカ息子!そういうところが
わかってないって言うんでしょーが。
いつまでもお気楽に寄生してないで、
ちょっとは自立しなさいっ。』
『繋ちゃん、アキは一応、結婚してたから
そこそこの家事は出来るはずよー。
離れ、小さいけどお風呂も台所もトイレも
ついてるから。荷物は家に置いといけば、
二人暮らしには充分だわ。』
アキ姉が、違った角度から抵抗を試みる。
『でも、そういう話って、
お父さん達の許可もいるんじゃない?』
アハハハハ…と笑う母ちゃんたち。
『お父さんの許可?いらない、いらない。』
『反対させるもんですか、ねぇ!』
アキ姉、瞬殺…
『話になんねぇ。
たまにビールなんか飲むから機嫌いいんだろ。
アキ姉、もう放っておけよ。
明日になったら、忘れてるって。』
『…そうかなぁ?』
『そうだって。気にすんな。』