第16章 指輪
仕事から帰ってきたアキ姉も、
困った顔で店にやって来た。
『繋心~、実家に入れてもらえない!
お母さんたち、本気みたいだよ。
マジでどうする??』
『どうも、ガチみたいだな。
ホント、どうすりゃいいんだ?』
『とりあえず…"おすわり"行く?
もう、お腹ペコペコよ…』
『だな。
店、閉めるまでもうちょっと待ってろ。
パンでも食っとくか?』
『アイスがいい。』
『金、払えよ。』
『ケチ(笑)』
…腹を減らして学校帰りに立ち寄る
高校生の相手をしながら、
店の奥でアイスに食らいつくアキ姉を
チラチラ見る。
都会的でキレイだし、
サバサバしてて付き合いやすい性格。
何より、お互いの性格も、家族のことも
あらかた知っている。
…知りすぎてるから、だろうか。
全く、トキメク、
という気持ちが湧かねーんだよな。
もしこれが、
合コンで出会ったばかりの女だったら…
充分、狙いに行くラインなんだけど。
閉店まで、そんなことを考えていた。
…そしてまた、今日も"おすわり"。
ジョッキを傾けながら、
これからについて話し合う。
友達の家に泊まろうか、とか
俺がテントで庭に…とか
いろいろ考えてみるけど、
どれも、一日二日ならともかく、
いつまで続くかわからない状況じゃ、
現実味のある策は思い浮かばず…
『しょうがねぇ。
これは"同棲"じゃなくて"同居"ってことで
しばらく、なんとかやってみっか?』
『…いいけど、
寝る場所だけは絶対、別にして。』
『当たり前だろ。アキ姉、和室、使えよ。
俺、廊下でいいからさ。』
『レディーファーストってことで、
遠慮なくそうさせてもらうからね。
で、繋心、ご飯、作れるの?』
『冷奴くらいは。』
『それ、料理じゃないし。』
『ヤキソバは作れるな、多分。』
『作ったことは?』
『ねぇけど。』
『…戦力外か…
じゃ、食事の準備と洗濯は私がやる。
片付けとゴミだしとお風呂の準備は繋心ね。
あ、あと、生活費は、折半。』
…そんなわけで、
両家の庭先で幼馴染みが同居という
奇妙な生活が始まった。