第16章 指輪
それからしばらく、
アキ姉は、
こっちで暮らす手続きをしたり
仕事を探したり、と、忙しそうだった。
俺も相変わらず、
店番したり、農作業の手伝いしたり、
夕方からはバレー教えに行ったり、
自分も町内会チームでプレイしたり、
つまり、
アキ姉が帰ってくる前と
全く変わらない毎日を過ごしてる。
当たり前だ。
お互い、それぞれの人生だからな。
他人のために、
簡単に何かが変わったりしねぇ。
…と、
この頃は、まだ思ってた。
そう。
この頃はまだ、
自分の人生は、
自分のためのものだ、と思っていたから。
40手前だというのに、
こと、人間関係…異性関係に関しては
俺、教え子達より子供だったのかもしれない。
後でそれに気づいた時、
それまで出席してきた教え子達の結婚式を
改めて振り返ってみて、
誰かと一緒に生きていく、
という覚悟を持つことが、
どれだけ、自分の価値観を変えることか。
20代でそう思える相手と出会い、
ちゃんと気持ちを伝えて、
すれ違いや距離にも負けることなく、
一緒に生きていく、
と、
男として決意したあいつら一人一人に、
改めて拍手を送りたい、と思った時、
俺も初めて、
"結婚"という言葉を
自分のこととして意識することに、なる。