第16章 指輪
それから何日かベランダの下着を見続けて(笑)
そのローテーションが
二周目のエンジ色に戻ったとき、
ふと、気になった。
…夏休み、なげーな。
ちょうどそう思った翌日、
アキ姉が店に顔を出した。
『ね、繋心、今夜、おばちゃんとお母さん、
一緒に町内会婦人部の集まりだって。
たまには、二人で"おすわり"行こうよ。』
昔はしょっちゅう、
うちの家族とアキ姉の家族でここに来てた。
でも、二人で来るのは初めてだな。
暖簾をくぐると
女将がほがらかに声をかけてくる。
『あら、アキちゃん、久しぶりでないかい!
相変わらず、都会のお姉さん、って顔してさ。』
『おばちゃーん、
ここの肉じゃが食べたくて帰って来た!』
『そら嬉しいねぇ。たっぷり食べてって。』
…お通しの鰺の南蛮漬けを食べながら
ジョッキをかたむける。
『な、アキ姉、いつまでこっちいんだ?』
『当分。』
『夏休み、なげーなぁ。』
『うん。人生の夏休み、だからね。』
…え?
『それは…そういうことか?』
『うん。全部、さよならしてきた。』
『全部?』
『そう、全部。仕事も、旦那も、マンションも。
だからもう、私の居場所は実家だけ。』
『そっか。』
『なんでだよ、って聞かないの?』
『話したかったら聞くし、
話したくなかったら聞かねーよ。』
『…繋心、優しい。なんか、大人だ。』
『俺、もう39だぞ?』
『ずっと弟みたいだって思ってたのに。
もう、飲みながら大人の話もできるのか~。』
『精神年齢は、多分、
高校生くらいで止まってっけど。』
『だから毎晩、
私の下着、チェックしてるんだ(笑)』
『バーカ。見て欲しかったら、
もちっとセクシーなの、干せよ。』
『勝負下着はちゃんとセクシーです!』
『干してるとこ見たことねぇってことは、
勝負してねぇってことだな。』
『してないねぇ(笑)
普段履きは、丈夫でラクチンが一番!』
『女、終わってんな。』
『うるさい!いい男の前では、
ちゃんといい女になるんですぅっっ。
あんたは、男じゃないからね!』
『男じゃなければ、俺は何だよ?』
『ヘンタイ。』
『ヘンタイだって、相手、選ぶぞ!』
『選ばれる女は、かわいそうだ…』
『相変わらず、仲がいいねぇ。はい、肉じゃが。』