第15章 100回目のプロポーズ
全日本の合宿所。
今、俺の手元には、一枚の紙がある。
以前から希望していた、
イタリアチームへの半年間の
バレー留学決定の通知だ。
本当は、
もしアキがこの時期までに
自力で絵画留学を決められなかった時は、
一緒に連れていくつもりだった。
ま、アキが行きたがってた
フランスじゃねーけど、
…影山の名前でパスポート作れ、って
またプロポーズするつもりでいた。
だけど、
あの日以来、
アキからは一切、連絡がないし、
もちろん、俺からも連絡していない。
アキは、俺と別れたつもりだろうか?
また、あの場所は、俺たちの別れの場に
なってしまったんだろうか?
同じ場所で、同じ相手と2回も別れるヤツ、
いるんだろーか…
あの時、言ったことに、後悔はない。
俺が伝えたかったことは、
きっとアキにも伝わってる…と
信じてる。
でも、
もし、
終わるなら終わるで、
ハッキリけじめをつけたい。
自然消滅ってヤツだけは、困る。
前に別れた時に、引きずる辛さを
イヤというほど思い知った。
こんなことで終わる俺たちじゃない、
と思っていたのは、
俺の思い上がりだったんだろうか?
…俺が一人で考えたって
しょうがないことだけど。
出発は、2か月後の9月末。
それまでに一度、
宮城に戻ろうと思えば、戻れる。
イタリア行きをチラつかせて
復縁を迫るようなことはしたくない。
ただ、終わらせるなら、
ハッキリ終わらせてから出発したい。
じゃねーと、前の時みたいに、
空を見ても景色を見ても
アキを思い出してるようじゃ、
せっかくの留学が身に付かねぇだろ。
…別れを確かめるためだけに宮城に戻るか…
これほどイヤな帰郷も、そうはねぇな。
はぁ。
壁のカレンダーを見て、溜め息をついた。
俺の夢の1つだった、イタリア留学。
ようやく叶うというのに
手放しで喜べないのは…
やっぱり、アキがいないからだ。
一緒に喜んでくれる人がいないって、
本当に、味気ねぇもんだ。
前にも同じこと、思ったのにな。
俺、学習能力、ゼロか?
いや、でも、俺は、
間違ったこと、言ってねーし。
『あぁ、クソッ、うまくいかねーな!』