第15章 100回目のプロポーズ
ここ数年のことを思い出す。
『何のために、今まで何年も離れて暮らした?
まだ、約束の100回になってねーだろ?
俺を逃げ場にすんな!』
『トビオ、だって…』
『先のこと、考えんな。
どうせ思った通りにはならねーんだ。』
…そうだろ?
あの日、ここで別れた時、まさかまた
付き合う日が来るなんて思わなかった。
『思った通りになる未来なんて
面白くもなんともねー。
今しか出来ねーことを全力でやらなきゃ
夢なんて叶わねーよ。
お前、それがわかんねーほど
バカじゃねーはずだろ。
お前から絵を取ったら何も残んねーの、
一番わかってんだろが、ボケ!』
『…』
『俺が関わる未来をお前が勝手に考えんな!
俺は確かにお前と結婚したいと思ってるけど、
俺の思い通りになる程度の女なら
こっちからお断りだからな。』
『…そんなこと言っていいの?
もしかしたら、トビオ置いて、
外国行っちゃうかもだよ?
宮城より遠くなるかもだよ?』
『おぉ、上等だ。
行けるんだったら行ってこいよ。
でも言っとくけどな、
うまくいかなかった時のための
言い訳や逃げ場を確保してるようなヤツは
本気で必死なヤツに勝てねーよ。
俺のプロポーズが
お前の逃げ場になってんだったら、
100回ってのは取り消しだ。
俺、あと一回しか
お前にプロポーズしねーから。
お前、下手したら夢も俺も失うぞ。
そんくらい必死になってみろ。
先のこと考えんのはそれからだ。』
…なんでだろな。
思い出の場所、大事にしたいのに
ここに来るとロクなことがねー気がする。
『もう、送んなくていいから。じゃーな。』
…アキを置いて、一人で歩きだす。
もしかしたら、もう終わりかもしんね。
でも、
それでもいい。
アキの魅力を一番知ってるのは、俺だ。
その道を俺が閉ざすことなんて、出来ねーし、
そんなアキは、見たくない。
もし、本当に俺たちに縁があるのなら、
また、必ず、繋がる。
きっと、また、繋がる。
そう、信じてる。
夢が理由で俺たちが別れるはず、ない。
甘さだけが愛情じゃないことを、
きっと、今までの経験で
アキもわかってくれてると思うから。
…だけど。
それから半年。
アキからは、
何の連絡もなかった。