第15章 100回目のプロポーズ
山口の結婚式の帰りに立ち寄った
アキの部屋。
いつもはほとんど外に出ずに
部屋の中で過ごすけど、
今日は、俺が東京に帰る前に、
アキが寄りたいところがあるという。
『あぁ、ここ…』
『あれからずっと、通れなくて。』
高校から繋がる坂道。
一番上は、アキがあの絵を描いた、
…俺が初めてプロポーズした、
…俺たちが別れた、あの場所だ。
『トビオ以外の人と、
ここ、歩きたくなかったから…』
坂道を歩きながら、
高校時代を思い出す。
…あの頃は"学校"と"家"が
毎日の全てだったから
この坂道を歩くのは、
その2つをつなぐ大事な時間だった。
些細なことで、
笑ったり怒ったりしてたな。
あの場所からの景色は、
ほとんど変わってなかった。
少し木が大きくなって、
見えていたはずの街が
緑に覆われて狭く見えるくらいか。
あの時、ここで
泣きながら別れた日が懐かしい。
アキが口を開いた。
『トビオ、あのさ。』
『ん?』
『トビオは、あと何年、現役かな?』
『は?』
『今、25じゃん。あと5年くらい?』
『んなこと、自分でわかるか…何でだよ?』
『私、最近、もう1つ、夢が出来た。』
『なんだよ。』
『子供に、トビオの現役の姿を見せたい。』
『…お前、スランプ?』
『違うよ、全力で描いてるよ。
でも、トビオとは、レベルが違う。
世界を相手にしてるトビオに比べたら
私はまだ、地方でも四苦八苦してる。
自分の夢で足踏みしてるより、
トビオとの未来を考えた方が、
残せるものがあるような気がして。』
『もう、描かねーの?』
『今度ダメだったら、
もう、あとは趣味でいいかもな、って。』
『…俺は芸術はよく分かんねーけど。
それって、練習ばっかして、試合がないのと
一緒じゃね?そんで面白いか?』
『ほぉ、なかなかピッタリの例えだね。』
ふ、
『…ふざけんな!』