第15章 100回目のプロポーズ
大学を卒業してから、
俺は、Vリーグのチームに所属しながら
全日本のメンバーとしてもバレーを続けている。
遠征や合宿も多いから、
正直言うと、
もしアキが東京で暮らしても
毎日、一緒に過ごすことは出来ない。
それでも、やっぱりいつかは
一緒に暮らしたい、という気持ちは
変わることはなかった。
一方のアキは、大学を出てから
地元でアルバイトをしつつ、
『大きな美展で賞をとる』
『絵画留学をする』という夢にむかって
絵を描く暮らしを続けていた。
変わったのは、
小さな安いアパートで独り暮らしを始めたこと。
絵を描くのには金がかかる。
だから
実家にいろ、って俺は言ったんだけど
『トビオが宮城に戻ったときは、
ずっと一緒に過ごしたいから。』と
言うことをきかなかった。
言い出したら頑固なアキだ。
それなら、ということで俺も納得し、
宮城に戻るときは、どんなに短い時間でも
アキの部屋に行くようになった。
その度に、アキにプロポーズする。
"いつか、結婚しような。"
"そのうち、結婚するぞ。"
"そろそろ、結婚考えろよ。"
"今度こそ、結婚しようぜ。"
簡単に『うん』と言ってもらえないのは
百も承知だ。
だからこそ、諦めないで言い続けたし、
アキも律儀に手帳に正の字をつけ、
100回までにはなんとか、と、
キャンバスと向き合い続けていた。
正の字が10個を過ぎた頃から、
正直言って、俺は、回数なんて
どうでもいい、と思い始めてたんだけど、
"ここまでに"という目標があることが
アキにとってのやる気に繋がってるのが
わかっていたから、
そこは、なんというか、
会うときの挨拶がわりのように
『結婚しようぜ』
『もうちょっとだけ待って』
という言葉が繰り返されていた。
そうやって、山口の結婚式の頃には
大学を卒業してから3年がたっていた。
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