第15章 100回目のプロポーズ
そうしているうちに、
チェックアウトの時間が迫ってきた。
『アキ、とにかく、ここ出るぞ。
朝飯は、どっか外で食おう。』
脱ぎ散らかしたままの服を集めていたアキが、
『トビオ…これ、ごめん。』
と、俺のワイシャツを拾い上げた。
くしゃくしゃのうえに、
アキが泣いた右肩は、
こすれた化粧や乾いた涙で汚れている。
『あぁ、構わねー。
どうせ滅多に着ないシャツだし。』
…とは言ったものの、予定では、
昨日のうちに日帰りで戻るつもりだったから
着替えがない。
『あ、そういえば。』
昨日の西谷さんの引き出物のバッグを探る。
…あった。
『昨日、Tシャツもらったんだ。
とりあえず、これ着るから。』
ガバッと袖を通した俺を見て、
アキが転がりまわって笑ってる。
『なんだよ?』
『…トビオ、ごめん、ほんと、ごめん、
笑いが止まらない~。』
『だから、なんでだよ?!』
『ちょ、鏡で自分の後ろ姿、見てみて~。』
…鏡に写った自分の後ろ姿を見て、
俺も吹き出した。
"家庭円満"と、大きな筆文字で書いてある。
…西谷さん、
今でも四文字熟語、好きなんスか?
てか、これ、引き出物にします?普通…
『ものすごく、トビオらしくない言葉!』
アキが、涙を拭きながら笑ってる。
『お、俺が選んだわけじゃねーし。』
一応、ちゃんと言い訳しておく。
でも。
俺らしくない、っていうのは、
ちょっと違う。
今、この文字を見て笑ってるアキと
結婚したい、
家庭を持ちたい、
…と思ってるのは、事実だ。
そこんとこ、ハッキリさせとかないと。