第15章 100回目のプロポーズ
会わないつもりだったけど、
やっぱり、会えてよかった。
元気そうだったしな。
しっかし、
あんなドラマみたいなこと、あんだな。
街角ですれ違う、とか。
いざとなったら、言葉って出ねーもんだ。
伝えたいことも聞きたいことも
いっばいあるはずなのにさ。
そういやアイツ、
あんま変わってなかったな。
彼氏、いんのか?
やっぱ、美大の男?
絵について、朝まで語り合ったりしてんのか?
ま、まさか、
裸婦画のモデルとか、してねーだろーな?!
…そこまで思って、ふと立ち止まる。
『俺以外の男の前で、
メガネはずすな。髪、ほどくな。』
それは、初めてセックスした時に
俺がアキに言った言葉。
…今、会ったアキ、メガネに三つ編みだった…
もしかしたら…
もしかしたら、
思わず、振り返る。
アキの三つ編み姿のシルエットが、
ちょうどあのビルに吸い込まれていった。
俺らしくねーかもしんねぇ。
おっかけるなんて、かっこわりーか?
でも、
気持ちとは裏腹に、体は走り出していた。
もし、ダメだったら、
そん時こそ本気で諦めるからさ、
とにかく、
一度だけ、確かめさせてくれ。
アキの中に、
俺はもう、いないのかどうか。