第1章 結婚一番乗り!
『思ってねーよ。全然、思ってねー。
お前、ゆうべから看病してたんだろ?
そのまま仕事に行って、
こうやって帰って来てすぐ飯つくって…
ダメどころじゃねーよ。お前、頑張ってるよ。
むしろ頑張りすぎだよ。ちょっとくらい休めよ!』
思わず、後ろから抱き締める。
『何か…俺に出来ること、ないのか?』
しばらくの沈黙の後、消えそうな声が聞こえた。
『1つだけ、お願いしていい?
…ちょっとだけ、このままでいさせて…』
あまりに小さな願い。
全力で叶えてあげたくて、
抱き締める両腕に力を込める。
『早瀬…アキって呼んでいいか?』
『うん。』
『…こっちむいて…』
アキの噛み締めていた唇にそっとキスをする。
『西谷君…』
これ以上近付いたら、
もう今までの関係には戻れない気がする。
それでも、俺は言わずにはいられなかった。
『俺に、アキとゆうとを守らせてくれ。
二人を笑わせたり、休ませたり、そ、その…
アキを、お、女として喜ばせたりしたい。』
『それって…どういうこと?』
『そういうこと、だよ。』
『ええと、私、離婚してから全然、
その…男の人と…そんな…』
『心配すんな。何も考えなくていいから。
アキはただ、感じてろ。』
『…電気…消してもいい?』
パチン。部屋中の灯りを消す。
カーテンの隙間から差し込む月の光。
ふすま一枚へだてたところに、
ゆうとが寝ている。
『声、出すなよ。』
『イジワル、しないでね…』
それは、
俺とアキの間にあった境界線が
なくなった瞬間。