第1章 結婚一番乗り!
それから毎週金曜日は、
ゆうとと、迎えに来た早瀬と
3人で食事をするようになった。
最初のうちはファミレスで。
そして時々、早瀬のアパートで。
たまにはゆうとに
『ノヤ先生、泊まってよ!一緒に寝よう!』
と言われることもあったけど、
そこから先に踏み込むことはなかった。
ヘタレ…って言うな。
一週間に一回、
一緒に晩飯時を過ごす時間が気持ちよくて、
その関係が壊れるのがいやだったんだ。
だけど。
ある金曜日。
スポーツクラブにゆうとが来ていなかった。
何気ない顔をして受付に聞いてみる。
『あれ?ゆうと、休み?』
『ゆうと君は熱でお休みって、
さっきお母さんから電話がありましたよ。』
…別に、一人で晩飯食うのは構わないんだけど。
何となく気になって、仕事の後、寄ってみた。
『おーい、ゆうとの具合はどうだ?』
室内から人が動く小さな音がして、
『…ノヤせんせ?…』
細く開いた玄関ドアのすきまから、
力のないゆうとの顔が見えた。
『ゆうと!かあちゃんは?』
『お仕事。僕は熱が出て、保育園お休みした…』
一人での留守番が心細かったんだと思う。
泣きたいのを我慢しているような
小さな小さな声だった。
『…俺、一緒に留守番しちゃいけないかな?』
『ノヤ先生…』
それから間もなく、早瀬が帰って来た。
『ゆうと、具合は…って、西谷君?!』
『勝手にあがってごめんな。
気になって帰りに寄ってみたら
ゆうとが1人だっていうから…
俺から頼んで入れてもらったんだ。
ゆうとはちゃんと留守番してたんだから
怒らないでやってくれよ。』
『怒るなんて…で、ゆうとは?』
『さっき、バナナ食わせて薬飲ませた。
今はぐっすり寝てる。』
『そう、よかった…ありがとね…』
~変な沈黙が流れる~
『あ、じゃ、俺、帰るな。』
『ちょっと待って。ご飯、まだでしょ?
すぐ作るから、テレビでも見ながら待ってて。』
…テレビをつけてはみたけど。
それよりも、小さなキッチンに立つ
早瀬の後ろ姿の方が気になる。
『なあに?』
『いや、別に。』
『…もしかして…
熱のある子を一人にして仕事に行くなんて
ダメな母親だ、とかって思ってる?』
いつもの明るい早瀬の声ではなかった。