第15章 100回目のプロポーズ
『でも、もしそうなったらその時、
トビオはきっと、苦しむ。』
アキは、きっぱりと言った。
『トビオのことだもん。
"離れてるからバレないだろ"なんて
コソコソつきあったりしないでしょ。
私に別れを言わなくちゃ、って
いつ、どこで言おうか、って
何て言ったらいいか、って、
きっとたくさん悩んでくれる。
そんなことで、
トビオの大事な時間を無駄にさせるなんて、
私、イヤだ。
何もしてあげられないうえに、
さらにそんなことで…
トビオを苦しめるのは…
絶対、イヤだ。』
アキはきっと、
思い付きや感情で言ってるんじゃない。
進路が決まったときから、
きっと、
ずっと考えてきたんだ、一人で。
この、バカ。
なんで、一人で悩むんだよ。
なんで、俺に一言も言わねーんだよ。
俺の事、お前が勝手に決めるなよ。
…そうだ、そもそも。
『ちょっと待て。
なんで俺ばっかり浮気する前提なんだ?
アキだって、そうならねーとは限らねーのに。』
『私は、ない。』
『なんだそれ。
悪者は俺だけじゃズルいじゃねーか。』
『トビオ以上に、私みたいな変人を
理解してくれる人は、いない。』
『…それは、俺も一緒…』
『違う!一緒じゃ、ない!』
アキが、繋いでいた手を
振りほどこうとする。
反射的に、
俺はその手を強く握りしめた。
ダメだ。
今、
この手を離しちゃ、
ダメだ。