第15章 100回目のプロポーズ
手を引っ張って、
今、早瀬が下りてきた階段を上がる。
『影山君、ここには絶対、用はないでしょ…』
『うるせー。』
中から鍵をかけて、改めて見回す。
美術の準備室。
初めて、来た。
両側が壁の、狭くて細長い部屋。
中庭に向かって、小さな窓が1つ。
そこから西陽が差し込んで、
オレンジ色の光と長い影が部屋を覆う。
雑然と置かれたデッサン用の彫像、
イーゼルやキャンバス、分厚い画集。
油絵具とテレピン油の匂い。
…うん、異次元並みに用がない場所だ。
でも、
多分ここは、早瀬にしたら
俺にとっての、
練習前の体育倉庫みたいなもんだろ。
狭くて暗くて散らかってるけど、
あの匂い、あの静かさ。
なぜだか心が落ち着く場所。
『ね、影山君、なに?』
『…お前がバカにされると、俺が腹が立つ。』
『なんで?影山君に関係ある?』
『ある。お前は、俺にそっくりだ。』
『…わけ、わかんない…』
『とにかく、似てるんだよ!
だから、
お前がグズグズしてるとイライラする。
あんだけ絵が好きで実力もあるんだから、
自分を否定するな。』
『…グズグズとかイライラとか、
何でそんなこと言われなきゃいけない?
影山君も、アイツらと一緒で
私をいじって楽しんでるの?』