第15章 100回目のプロポーズ
なんだか、猛烈に腹が立つ。
早瀬の前を、ズンズン歩く。
『…影山君、やっぱり怒ってるじゃん。
だからぁ、遅くなってゴメンって。』
『ちげーよ。』
『じゃ、何で怒ってんのよ?』
立ち止まって振り向き、顔を見る。
メガネの奥に、あの輝きは全くない。
目立たない、フツーの…
むしろ、確かに、地味な方の女子。
でも。
『なんで、言い返さねーんだよ。
大事なもん、投げられたんだろ。怒れよ!』
『…言い返したつもりだけど?』
『言い返すポイントがズレてんだよ!
ゴッホでもバッハでもかまわねーけどさ、
絵を描く以外になんもできねー、とか
真面目な絵ばっかりで面白くねー、とか、
そこんとこ、言い返せよ。
じゃねーと、お前の人格、完全否定だぞ!』
『バッハ、いつ出てきた??
…でも言われたことは、その通りだから。
言い返せないもん。』
『違うだろ?!
他に何もできねーんじゃなくて、
絵の才能がありすぎなんだろ?
面白くねーんじゃなくて、
アイツらがわかってねーだけだろ?
もっと、ちゃんと言えよ!』
…俺だって、わかんねーんだけど。
いや、それ以前に、
俺は、
何で、
こんなに腹がたってるんだ?…
『大丈夫。ああいうの、慣れてる。』
きっぱりと言い切る早瀬。
『確かに私、地味だし友達も少ないし
彼氏もいないし他に取り柄もないし。
全部、アイツらの言った通りだから。
むしろ、反論できない。』
…ん?なんだか、
俺のことを言われてるような
気がするのは何でだ?
地味?かどうかはわかんねーけど、
及川さんに比べたら、愛想が悪い。
友達も、多くはない。
今、彼女もいねーし。
成績も、大したことなさすぎる。
バレー以外に取り柄もないな、残念ながら。
…そう思うと、
あんだけ言われて反論しない早瀬に
益々、腹が立つ。
すれ違うヤツらが、
『ケンカ?』『バレー部?』とか
言ってるのが聞こえる。
『…ね、何で怒ってんのかわかんないけど、
もう、早く当番に行こうよ。』
『ちょっと待て。こっち、来い。』
何を言いたいのか、自分でもわからない。
でも、
このままじゃ、引き下がれない。