第15章 100回目のプロポーズ
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一緒に当番をするようになってからも
早瀬は時々、絵を描くのに夢中で
遅れてくることがあった。
その度に、俺が美術室まで迎えに行く。
あの日も、その途中だった。
特別教室が並ぶ校舎の階段を上る途中、
上から声が聴こえる。
…サッカー部のヤツらの声だ。
『お、烏野のピカソちゃん!
そんなに急いで、どこ行くんだよ?』
『当番。急いでるから、どいて。』
『当番?お前、
お絵描き以外に出来ること、あんのかよ?』
『うるさいなぁ。
あんた達と話してる暇、ないの。
待たせてる人がいるから、どいてって!』
『おめーを待つヤツなんて、いんの?
友達も彼氏もいねーくせに。』
『当番に友達も彼氏も関係ないし。』
『ピカソちゃんの新作、見せてみろよ。
どれどれ…』
『あ、もう…返して。』
『うわ、真面目な絵ばっかりじゃん。
もっと、マンガとか裸の女とか、
面白いもの書けねーの?つまんねー女。』
『でも、ピカソよりうめーんじゃね?』
『やっぱ、ゴッホとか、好きなわけ?』
『ラッセンが、好、き~♪って言ってみろよ!』
…聴くに耐えないヒドイ言葉が
俺の頭上を飛び交う。
アイツ、どんな顔して言われてんだ?…
『私の画風はピカソじゃないし、
ラッセンよりゴッホが好きだし。』
『真面目に答えるとか、ダセーなぁ。
ほれ、返すよ。自分で拾え!』
バサリ。
スケッチブックが、降ってくる。
『じゃあな、お絵描きメガネザル!』
…笑いながら遠ざかる男子の声。
反対に、
バタバタと急ぐ足音が近づいてくる。
『あ…影山君!
ごめんっ、今日も間に合わなかったっ!』
『…いいよ、忘れてたわけじゃねーんだろ。
それより、コレ。』
スケッチブックを拾って、渡す。
至って普通の顔で受け取って、
さっきのことなど
まるでなかったように言う早瀬。
『ありがと。遅くなったね、行こう!』