第14章 祝福の拍手
『…忠くん…ごめんね…』
…謝るなよ。
バカなこと口走った、 俺が悪いのに…
『忠くんに
そんな思いさせてたなんて気付かなかった。
本当に、ごめんなさい。』
…え?
『私、甘えてた。
忠くんは、私が言葉にしなくても、
なんでもわかってくれてる、なんて…』
アキが、ギュッと俺の首筋に
抱きついてきた。
裸のまま。
俺の服越しに、体の冷たさが伝わる。
『私、一年前に忠くんが、
ケイ君とちゃんと向き合って
私に想いを伝えてくれた時、心から感謝した。
私を前に進ませてくれてありがとう、って。
今日、うちの父の前で
ケイ君のことをかばってくれた時、
この人は信用できる人だって
改めて確信したし、
父が忠くんのこと認めてくれたのも
本当に嬉しかった。
私にとっては父も大事な家族だから。
忠くんは
改めて言わなくても、
一番、私を分かってくれて、
一番、私を愛してくれて、
一番、私がそばにいたい人だって
伝わってる…って、勝手に思ってた。』
…アキ…
首筋に抱きついていた腕が離れ、
アキの瞳が俺を見つめる。
丸くて大きな茶色い瞳に、俺が、うつってる。
『忠くん、
ちゃんと言葉で伝えてなくてごめんなさい。
私、今日、ケイ君と久々に向き合って、
わかったよ。
懐かしい、とは思ったけど、
それ以上の気持ちは全くわかなかった。
いろいろごめんね、って伝えられたから、
何一つ、心残りは、ないの。
ケイ君は、もう、チームの仲間の一人。
だからこれからは、烏養さん、って呼ぶね。
…烏養さんとつきあってたことは
どうやったって事実のままだけど…
私の中では、
もう、完全に終わったことだから、
烏養さんとの…その…どんなことも…
忠くんと比べられるものじゃない。
…私の、気持ちです。
忠くんのそばに、いたい。
私を、忠くんの奥さんに、して下さい…』
…坂ノ下商店からの帰り道、
夕陽に照らされて眩しそうだった
アキの横顔を思い出す。
幸せそうだった。
結婚できるのが夢みたいって
言ってくれた。
そして今、俺のそばにいたい、って
言ってくれた。
…これ以上、何がいる?
20年以上も生きてる。
お互い、過去があって当たり前。
それも含めて…
俺の大事な、アキだ。