第13章 嫁ぎの紅(べに)
『108本のバラの花束の意味は…』
目を閉じて
スウッ…と息を吸い込んだ日向君が
大きく目を開いて私を見つめる。
『僕と、結婚してください。』
…え?
誕生祝いじゃなくて、
これって…プロポーズ?!
日向君らしく…なくない?
『それ…ホント?誰情報?』
…あぁっ!こんな時に
ロマンティックな返事が出来ない私って!
我ながら、バカバカバカっ!…
『縁下さんに、
アキちゃんをびっくりさせたいって
相談したんだ。そしたら、
バラの花束持っていけって。』
…あ。いつか、駅で話したことあった…
『そんで、その話を木兎さんにしたら、』
『え、木兎さんって、ヨントリーの?
日向君、木兎さんとも友達なの?』
『友達ってか、高校の時からの
大好きな先輩。今も、仲いいよ。
んで、その木兎さんが、バラの花束なら
108本にしろって教えてくれた。
木兎さん、自分がプロポーズの時に
そうしたかったんだけど、旅行先で
プロポーズしたから、さすがに108本は
持ち歩けないって断念したんだって。
だから、俺にそのネタ、譲ってくれた。』
…ネタって(笑)
しかも、譲ってくれたって(笑)(笑)
てか、このプロポーズ大作戦、
みんな知ってるってわけ?…
『そして木兎さんが、
誕生日に日付が変わった瞬間に
ピンポーンって行くんだぞ、って。』
…あ。
それってもしかして、
おかーさんも知ってたってこと?
だから私を寝かせてくれなかった?
だから玄関の鍵があいてた?
『もう1つ、渡さなくちゃ。』
日向君が、大事そうに取り出した小さな箱。
『指輪。受け取ってくれる?』
日向君が、左手の薬指にはめてくれた。
細いシルバーのリング。
ゆるいカーブがとってもステキなうえに、
…サイズがぴったりでビックリする。
『なんで、私のサイズ、知ってるの?』
『律子さんが教えてくれた。ね?!』
ね、って?!
日向君の目線を追って振り返ると、
細く開けたドアの隙間から
ドラマの家政婦ばりに
こっちを盗み見しつつ
ピースサインを出している母。
…おかーさん、このプロポーズ大作戦の
一部始終を見届けるつもりらしい…