第13章 嫁ぎの紅(べに)
母のケガは、結局、完治するまでに
1ヶ月ちょっとかかった。
もちろん、あの母が
1ヶ月間じっとしているはずがない。
あっという間に
松葉杖を使いこなすようになり、
不自由なりに出来ることがあると
さっさと仕事にも復帰した。
…で、今、私は、母を迎えに病院に来ている。
久々に松葉杖もギプスもはずして歩く日だから
荷物くらい、持ってあげようと思って。
廊下で母を待っていたら、
絵美さんが通りかかった。
『絵美さん!この1ヶ月、
いろいろ迷惑かけてごめんね。
でも、絵美さんいてくれて、
ホントに助かった。ありがとう。』
『あら、お互い様だから気にしないで。
律ちゃん、強いから、
迷惑も心配もぜんぜんなかったし。』
『今じゃ、松葉杖は
武器みたいになってるしね…
あんな、鬼みたいに強いおかーさんの
どこに惚れたのか、
おとーさんが生きてたら
聞いてみたいくらい。』
絵美さんが、おかしそうに、笑った。
『そーか、アキちゃんは知らないのか…
律ちゃん、頼りなくて泣き虫だったのよ。
ついつい支えてあげたくなるような、ね。
彼にべったり依存してて、
それはそれは仲のいい二人だった。』
『うそ…いつの間に、あんな鬼に?』
『旦那さんが亡くなってからよ。』
『…一人になってから?』
『そーよ。わかるでしょ。』
『?』
『アキちゃんがいたから。』
『っ…』
『旦那さんがアキちゃんを
律ちゃんに託したのよ。
アキちゃんを一人前にすることが
律ちゃんの、旦那さんへの愛情なのよね。
羨ましいわ。
この世にいなくなっても
あれだけ想える人がいるってことが。』
…向こうから、
ひょこひょこ不自然な歩き方の影が来る。
『あ、武器を無くした鬼が来た。』
『あら、ホントだ。
ね、アキちゃん。
わかってると思うけど、
アキちゃんと彼のこと、
誰よりも応援してるの、律ちゃんだから。
親か男か選ばないといけない時は…』
『うん。わかってる。
絵美さん、ありがとう。…鬼孝行、してくるね。』
私は、
おとーさんとおかーさんの
愛で、出来ている。
当たり前のことだけど、
これほど心強い言葉を
私は知らない。
私も、強くなる。
愛をくれた人のため。
愛をくれる人と一緒に。