第13章 嫁ぎの紅(べに)
『やれやれ、松川先生、絵美さん、
二人ともごめんなさいね、
小芝居につきあわせちゃって。』
『4~5日どころか、こりゃどう見たって
1ヶ月はかかりますよ(苦笑)』
『アキちゃん、帰って来てそれ知ったら
怒るわね、きっと。』
『だから、ごめんって。
でも全治一ヶ月なんて言ったら
あの子、東京行き、キャンセルするって
言いかねないから。』
『娘さんと旅行の予定だったんですか?』
『東京にね、彼の大事なバレーの試合を
見に行く日なのよ。』
『へー、彼、バレーやってんですか。
俺も高校時代、バレー部でしたよ。
バレーやってる男に、
悪いヤツいないですよ、きっと。
…ヘンなヤツは、時々いますけど(笑)』
『これがなかなか、素敵な彼なのよ。
結婚してくれたらいいな、って
思ってるんだけど。』
『あぁ、それで、強制的に親離れを…。
でも"男か親か選ぶ時は男をとれ"なんて
早瀬さん、カッコイイっすね。』
『律ちゃん、
自分がそうだったからじゃないの?』
『絵美さん、古い話はしないで~っ。
…松川先生も、結婚してるでしょ?』
『ええ、うちは嫁さんが前の結婚の時、
それこそ
親か男かで男選んじゃったもんだから
それ以来、家族ともめたまんまみたいで…
俺も、嫁の実家に行ったことないんすよ。
だから、
親が喜んでくれる結婚が一番だって、
つくづく思いますね。』
『そりゃ、松川先生、
いつか奥さんの実家、顔だしてあげなさいよ。
きっと奥さんのご両親も、昔とは違うはず。』
…だって、
我が子の幸せが
親の幸せなんだから。
だからアキは
いつでも、どんな時でも迷わず、
翔ちゃんのところに行きなさい。
それが、
おとーさんとおかーさんの
一番の願い。