第13章 嫁ぎの紅(べに)
最終の新幹線で帰る私たちを、
日向君は東京駅まで見送りに来てくれた。
『律子さん、アキちゃん、また
応援に来てくれたらウレシーなっ!』
…なんて、ニコニコしながら言うのは
社交辞令なんだろうか…
試合の時とは違う
普通の男の子の顔をして、
ホームから手を振ってくれる日向君。
『う~ん、翔ちゃん、かわいいっ!
うちにあんな息子がいたらいいのに~。』
『すみませんね、平凡な娘で。』
『あら、グレてる(笑)』
『てか、お母さん、よく普通に喋れるね。
日向君、特別な人だよ?
それこそ、お母さんみたいな人が
自分の息子みたいに接していいわけ?』
『特別?なんで?』
『だって、プロ選手でしょ?
ファンとかきっといるんだよ?』
『あら、お母さんだって看護のプロよ。
こう見えて、病棟の中では
結構、人気者なんだから。
おじいちゃんがたに
ペロ~ンとお尻触られたりしてね…
はぁ、人気者も大変。』
『…』
『アキ、あのね。』
お母さんが、少し呆れた顔で言う。
『みんな、一緒でしょ。
生まれて、勉強や仕事して、
ご飯食べて、遊んで、寝て。
恋して、笑って、泣いて。
その繰り返しが人の一生。
あとは、どんな人と出会うかで
人生の中身が変わるの。
だから、仲良くなりたい!と思う人がいたら、
自分から近寄っていかなくちゃ。』
『それ、誰の名言、パクったの?』
『知りたい?』
『いーや、どーでもいいけど。』
『あのね、お父さん。』
『…ほんと?』
『そうよ。お父さんが昔、
お母さんに言った言葉。でも』
お母さんは、
缶ビールの残りをグイッと飲み干して
『ま、恋もまともに出来ない娘に
語って聞かせるにはもったいないわね。』
…そう言うと、
"ふわぁ。興奮したら疲れたわ。
着いたら起こしてね。"と、
あっという間に、寝てしまった…