第13章 嫁ぎの紅(べに)
日向君がよく来る、という
大きなチェーン店の居酒屋で、
母と日向君はバレーボール談義に
花が咲いている。
…お母さん、
あの試合の日向君を見た後でも
普通に話せるって、すごいわ…
なんとなく入っていけない私は、
黙って、ホッケの身をほぐすことに
集中していた。
『…ね、ね、アキちゃん、
初めてバレーの試合、見たんだって?
どうだった?』
急に話しかけられて、びっくりする。
『う、うん。すごいスピードなんだね、
迫力あってびっくりした。
日向君の集中力も、すごかった。』
『集中力っていうか、
周りがみえてねぇってよく怒られる。
でも、俺も早く、
スタメンで出られるようになりたいんだ。
木兎さんとかとも
ちゃんと闘えるようになりたい。』
『日向君も、及川王子みたいに、
日本代表、みたいなのになりたいの?』
『あぁ、大王様、すげーよ。
でも、俺の高校時代の相棒は
大王様よりすげーんだ。
今、全日本に入ったばっかりだから
これからあいつ、大王様と
ポジション争いするんだろーなー。
俺も絶対、あそこに入って、
あいつのトスをまた打つ、絶対。』
…誰のことだか、
何のことだかわからないけど、
日向君の目がキラキラしてて、
すっごくバレーが好きなんだ、
ってことが、伝わってきた。
眩しい。
日向君が見てる景色は
私の日常とは全然違うんだろうな、
と、思う。
特別な人。
遠い人。