第3章 受け継ぎ婚
アキは、一人っ子。
母親はアキが中学の頃、他界していて
父一人、娘一人の父子家庭だ。
アキを見送る広島行きの新幹線のホームで、
俺が大阪に行った3年前を思い出す。
『また、離ればなれだな。』
『そんな大げさな顔、しないでよ~。
大阪東京が、東京広島になるだけじゃん。
今までだって大丈夫だったんだもん、
これからだって大丈夫。』
『…なぁアキ。おとうさんが落ち着いたら…』
結婚しよう。
アキの左手の薬指に、
ポケットから取り出した指輪をはめる。
アキは驚きながらも
『なんか、ドラマみた~い』と笑い、
左手を高くあげて指輪を見ながら言った。
『お父さんに、
プロポーズされたって報告しなくちゃね!
あ、でも“娘は渡さんっ“とかって
急に起き上がって怒り始めたりして(笑)』
『それでもいいよ、
お父さんが元気になるなら。
俺、結婚、許してもらえるまで、
何度でも広島まで行くよ。』
そう言ったのに。
それから一ヶ月後、
病状が回復することがないまま、
お父さんは、亡くなった。
俺が一度も挨拶に行けないうちに。