第11章 ガーデンパーティー
『だって、さわやか君…じゃなくて菅原君、
人の心に入っていくの、上手じゃん。
あの王様飛雄ですら、菅原君が指示出すと、
サラッとプレースタイル変えちゃったこと
あったくらいだもん。
それって、菅原君の才能でしょ。
政治家みたいなタヌキおやじの相手するより、
その爽やか笑顔で
地元の人の中に入っていくほうが
絶対、いい仕事できるって。
ほら、実際、今、俺だって、
女性記者ちゃんでもないのに
こんなにペラペラ喋ってるのは
爽や…菅原君効果だよ。
頼まれたら、このまま
インタビューだって答えちゃいそう。』
思いもよらない相手からの
思いもよらない言葉に
頭を殴られたような気分だった。
俺、何で、政治部に未練があるんだ?
何で、文化部に興味が持てないんだ?
『…あの、及川さん、バレー選手以外に
なりたいと思ったことあります?』
つい、取材とは全然違う質問をしてしまった。
すると、横から岩泉君が口を挟む。
『こいつ、バレーしか出来ねーからな。
バレーがあってようやく人並みだから
職業、選ぶ余地ナシ。』
『ちょっと、岩ちゃんっ!』
『違いねーな。』
そう言って笑ったのは、
新婦の支度をしていた…
花巻君、だっけ。
『俺、美容師だし、
岩は教師だし、
松川は医療関係だけどさ、
逆に俺ら、バレーで食っていこうなんて
思ったこともねーもんな。
そんなん、とてもじゃねーけど無理って
ずっと及川を近くで見てたから
じゅうぶん、わかってたし。』
松川君も、口を開く。
『及川は、どっちかってったら
ホストとかヒモの方が
"やりたいこと"なんじゃねーの?
でもお前、それやったらロクな人生歩けねーよ、
締まりがねーから。
バレーは、お前が堂々と金もらえる
唯一の"やれること"だからな。
やれるうちは、まぁそこそこ真面目にやれよ。』
『ちょっと、まっつんまで!
俺はいつだってバレーひとすじ、一球入魂!』
…みんな、ゲラゲラ笑っている。
その笑い声が遠くに感じた。
雷に打たれたような衝撃。
"やりたいこと"と"やれること"。
俺、なんでこの仕事を選んだんだっけ?
何がやりたかったっけ?
ちゃんとやれてるっけ?