第11章 ガーデンパーティー
炊きたてのご飯に、
野菜がたくさん入った味噌汁。
脂ののったシャケ。
キノコがたくさん入ったオムレツ。
そして、漬け物が三種類。
文字にするとシンプルなメニューなのに、
一皿づつ、おだやかな気配をまとい、
丁寧に作った料理なのが伝わってくる。
オレンジ色の灯りがともる
静かなキッチンに、二人。
『いただきます。』
味噌汁から箸をつける。
…なんだ、これ…
体中から力が抜けていく。
何かを食べて
"しみじみうまい"と思ったのは、初めてだ。
『すみません、俺、味の表現とか
あんまり言葉を知らないんですけど…』
『いえ、そのお顔見てれば充分です。』
…顔?
あれ?
俺、なんで泣いてんだ?
…もう、何もかもが初めての状況で
どういう対処をすればいいのか
自分でわからない。
箸とお椀を持ったまま、
軽くパニクっている俺に
彼女はおだやかな笑顔で言った。
『きっと心にも体にも、
足りないものがあったんですね。』
足りないもの?
…あぁ、足りないものだらけだ。
荒れてスカスカの心を、
味噌汁1つで見透かされている。
箸とお椀を置いて涙を拭いてから、
ほろりと口走ってしまった。
『昨日は、突然仕事は異動になるわ、
彼女にはフラれるわで…
もう、足りないものどころか、
俺、今、からっぽなんです。』
『え?じゃあ…』
彼女が、驚いた顔をする。
『私と同じですね。
私もゆうべ、フラれたばっかりです、その窓辺で。』