第8章 小さな小さな披露宴
線香をあげ、手を合わせる。
『もう、1年たつんですね。』
『ええ。
ひとりでなんて生きていけないと思ってましたけど、
今は毎日忙しくて、気が紛れてます。』
『お店があって、よかったですね。
ご主人、リハビリしながら、よく
早く店に帰りたい、
家内に苦労かけっぱなしだからって
気にしてらっしゃいましたよ。』
『松川先生には、本当にお世話になって…』
『あの…
その“先生“っての、そろそろやめませんか?
俺、もう病院関係者じゃなくて
普通の客の一人としてここに来てるつもりなんで。』
『すみません…
松川先生だけが
主人との思い出を繋いでくださるものだから、
ついつい…
でも、何て呼んだらいいのかしら?』
『普通でいいですよ。
松川さん、とか松さん、とか。』
『…いっせいさん、じゃダメですよね?』
『あれれ。俺を呼びながら、
ご主人を思い出すつもりですか?』
『いえ、ごめんなさい、そんなつもりじゃ…』
『でも、アキさんがそうしたいなら、
俺は全然かまいませんけど。』
『…いっせいさん…』
『はい?』
『…いっせい、さん…』
俺を呼んでいるのか、
ご主人を呼んでいるのか、わからない。
けど、
泣いている。