第8章 小さな小さな披露宴
それからは時々、
その店に寄るようになった。
独り身の俺にとって、
家庭料理を食べられる行きつけの店の存在は、
とてもありがたい。
彼女…アキさんとも自然に話せるようになり、
いつしか、常連客の一人として
暖簾をくぐるようになっていた。
そんなある日、
アキさんに声をかけられた。
『来週、主人の一周忌なんです。
だけど、私達、この街に
親しい知り合いもほとんどいなくて…
もしよかったら、松川先生、
お線香あげに来て頂けませんか?』
一周忌の日。
仕事を終えてから店に寄ってみる。
店は暖簾もでておらず、中も暗い。
『本日は勝手ながら休ませていただきます』
という、手書きの張り紙もしてある、
…いないのかな?…
とりあえず、引き戸に手をかけてみると、
カラカラと開いた。
『こんばんわ…アキさん?』
暗い店の奥のふすまが開く。
『あ、松川先生…来てくださったんですね。
ありがとうございます。どうぞ、こちらへ…』
店の奥に、
こんな部屋があるとは知らなかった。
寝泊まりができるような 住居スペース。
小さな引き出しと鏡、ちゃぶ台、
そして、部屋の片隅に、仏壇。
法要の後らしく、
彼女は喪服を着たままだった。
…頬に、涙の跡…