第8章 小さな小さな披露宴
その日は、車を店の手前に停め
荷物をおろすところまで手伝って、帰った。
本当は店まで荷物を運んであげたかったけど、
そしたら彼女はきっと
『お茶でも』と勧めることになるだろう。
それじゃ、却って気を遣わせる。
そのかわり、
通夜には足を運んだ。
写真の中で笑っていたのは
やっぱりあの人だった。
『家内に苦労かけっぱなしで…』と
言っていたっけ。
あれから一度も家に帰ることなく
亡くなってしまったこと、
どんなに無念だっただろう。
俺は、
医療従事者の一人として
彼の望みを叶えてあげられなかったことを
申し訳なく思い、遺影に手を合わせた。
…それで終わり、のつもりだった。