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ウェディングプランナー(R18) Hi-Q

第27章 ウェディングプランナー



『…とにかく、駅までは送る。
もともとそれが監督命令だしな。』

抱き締めていた私を解放し、
でも、再び繋いだ手には
さらに強く力が込められて。

『行くぞ。』

反論する元気もなく、
そして何よりも
そのあたたかさと力強さが心地よくて、
私も、それ以上の抵抗はしなかった。

黒尾さんと、手を繋いで、歩く。

知らなかった。
今までは眩しすぎて嫌いだった、夜の街。
今日は…黒尾さんと一緒だからだろうか…
ディズニャーランドのパレードみたいに
華やかで楽しそうに見える。
私にも、魔法がかかったみたいに。

端から見たら私たちはきっと、
仲の良さそうなカップル…というより
迷子を見つけて連れて帰る父と子、
…みたいな雰囲気だろう。

…まぁ、確かに、迷子みたいなものだ。
黒尾さんは、一足先に
そこを抜けられたみたいだけど
私はまだまだ人生を迷走中。

黙って、歩く。
だけど、気まずくはなくて。
むしろ、心地よくて。

言葉がない分、
その他の五感全てが働く。

あたたかくて力強い手。
前を見つめて歩く横顔。
きっと、私にあわせてくれてる歩幅。
しっかりとした靴音。

黒い夜空に
街の灯りとざわめき。

すれ違う人ごとにかわる匂い。
お酒の匂い、
香水の匂い、
煙草の匂い、
焼き鳥の匂い…

だけどずっとかわらないのは
私の左側の匂い。
…黒尾さんの、
すっきりとした、香り。

耳には聞こえないけど確かに感じる、
自分の鼓動。

不思議なことに、ドキドキ、ではない。

むしろ
ゆっくりゆっくり、おだやかで。

…もしかしたらこのまま、
心臓、止まるんじゃなかろうか…
それでもいい、今ならそれでもいい、
そう思ってしまうこの感覚。

ドキドキを通り越すと
こんな穏やかな気持ちが待ってたっけ?

…もう、忘れてしまった。

そして、ドキン、とする。
この穏やかな気持ちの先には
何が待っているんだっけ?

裏切りと悲しみ以外のその先を、
まだ、私は経験したことがないな…

そんなことを考えながら、歩いた。

黒尾さんは…
何を考えてるんだろう。

すごく力の抜けた
やさしい表情に見える。

黒尾さん、今、何、考えてます?
…って、聞きたかったけど、やめた。

想像するのは自由だから。

黒尾さんも、今、
おだやかで小さな幸せを感じてる。
…って、勝手に、思うことにする。

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