第27章 ウェディングプランナー
次から次に予想できないことが起こって、
私は今、軽いパニック状態なんだと思う。
…多分、黒尾さんも、
トーコさんとの別れで判断力が正常じゃないんだ。
だから私を
…というか、目の前の物体…を抱き締めて
自分の心を落ち着かせてるんだろう。
"溺れる者は ワラをも掴む"的な
そんな状態に違いない。
『やめてください。』
…って言って突き放したい。
のに、
それが、出来なかった。
驚くほど、黒尾さんの腕の中が
居心地よくて。
この間、抱かれた時とは全然違う。
あの時は、頑なで寂しげだった。
今は、何もかもが柔らかい。
冬の朝の毛布みたいに
暖かくて柔らかくて
そこから抜け出せなくて…困る。
抜け出さないと。
このまま勘違いしたら、
私、痛い女、でしょ。
『…黒尾さん、
私が今、思ってること、言ってもいいですか?』
『あぁ。何だ?』
『…なんか、疲れた。帰りたい。』
一瞬の沈黙の後、黒尾さんが笑いだす。
私を抱き締めたまま、
私の頭をクシャクシャ撫でながら。
『(笑)あぁ…そうかもしんねーな。』
だって、そうでしょ?
いきなり二次会に呼び出されて
着なれない服を買って
監督と焼酎飲んで、
黒尾さんと二人で歩くことになって
トーコさん達にでくわして、
手を繋いで歩いて、抱き締められて。
夢だって、もうちょっとシンプルだ。
こんなこと、現実にいっぺんに体験したら…
疲れるに決まってる。
早く、私のお城でパジャマに着替えて
ゴロゴロしたい…
『帰るか。送るよ。』
いや、それは断固として断ります!
『いいえ、一人で大丈夫です。
…ってか、むしろお願いします、
ついてこないで下さい!黒尾さんがいると…』
『俺がいると、なんだよ。』
抱き締められたポーズのまま、
顔だけ上を向く。
…すぐ真上に、黒い髪、黒い瞳。
『緊張して、疲れがとれない。』
え?とでも言うように目を丸くして
すぐに両目を線のように細くして。
アハハハハッ、と声を出して笑う。
…こんな黒尾さん、初めて見た。
『…あぁ、おっもしれーな!
俺、今まで、そんなヒドイこと、
言われたことねぇぞ?』
そして、私の頭にポン、と手を置いて。
『よし、決めた!
いつか必ずあんたに
"俺のそばが一番落ち着く"って
"俺のそばにいたい"って言わせてみせるから。』
